2015 JRC Round 7 Report

【全日本ラリー選手権 第7戦/北海道帯広市】

奴田原選手組の連勝を筆頭に今年もヨコハマタイヤ勢が表彰台独占、
新井選手組はシリーズ2戦を残してチャンピオンを確定!!

JRC Round 7

開催日 2015年9月18日-20日
開催場所 北海道・帯広市 近郊
天候/路面Leg1) 雨/ウェット
Leg2) 曇り のち 晴れ/ドライ
グラベル(非舗装路面)
総走行距離 741.66km
SS総距離 189.82km (17SS)
得点係数 2.0 (非舗装路150km以上)
参加台数 38台 (オープンクラス含)
(ヨコハマタイヤ装着車 11台)
全日本ラリー選手権 第7戦

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今年もAPRC(FIAアジア・パシフィック・ラリー選手権)と全日本ラリー選手権が併催される国際ラリー競技会「RALLY HOKKAIDO」が、北海道十勝地方を舞台に9月18日から20日にかけて開催された。ラリーウィークを迎えて北海道では大雪山系の黒岳(標高1,984m)の頂上付近で初雪が観測され、冬が近づいていることを感じさせた。そして十勝地方はレッキ1日目の木曜日こそ“十勝晴れ”と称されるさわやかな秋晴れに恵まれたが、競技がスタートする金曜日の夕方から雨が降り始め、土曜日は完全なウェットコンディションに。日曜日には回復したものの、この天候の変化は大きな勝負をわける要素のひとつとなった。

例年通りホストタウンは、十勝地方の中核都市である帯広市。北愛国交流広場に設けられたサービスパーク、そこに隣接する特設SS(スペシャルステージ)の「SATSUNAI RIVER (0.96km)」には金曜日から多くの市民やラリーファンが足を運んだ。林道SSは十勝北部の4町に設けられ、土曜日はダートコースと林道をつないだ「RIKUBETSU LONG (4.63km)」を3回、「YAM WAKKA (23.49km)」「KUNNEYWA (28.75km)」「PAWSE KAMUY (10.40km)をそれぞれ2回ずつ、そして締めくくりに「SATSUNAI RIVER」を1回走行する。

日曜日は「OTOFUKE Reverse (6.12km)」を2回、「IKEDA (12.37km)」と「NEW HONBETSU (13.79km)」、「NUPRI PAKE SHORT (9.37km)」「SATSUNAI RIVER」を1回ずつ走行し、17本のSS・合計229.08km、リエゾンを含めた総走行距離741.66kmで競われる、シリーズでも群を抜くスケールの大きさが特徴のRALLY HOKKAIDO。ポイント係数は2.0、シリーズチャンピオン争いにおいても天王山と呼べる重要な一戦だ。

そして今年のRALLY HOKKAIDO、そのステージは基本的にグラベル(非舗装路)だが、NEW HONBETSUのスタートから6.29KM以降の後半部分と、新たに今年設定されたIKEDAの全てはターマック(舗装路)となっている。

18日(金)は午後からラリーショーが催され、選手たちは市民へのファンサービスにつとめて交流を深めた。その後、セレモニアルスタートを経て、SS1「SATSUNAI RIVER 1」で競技は幕を開ける。0.96kmのショートステージ、スタート前に雨が降り始めてコースはウェットコンディションに。ここからヨコハマタイヤ勢の中でも戦略がわかれ、新井敏弘選手/田中直哉選手組は海外ラリーで鍛えられた対応領域幅の広いグラベルタイヤであるADVAN A053を、一方で奴田原文雄選手/佐藤忠宜選手組は軟質路面性能を高めたADVAN A031を装着。注目のSS1はシリーズリーダーの新井選手組がステージベストで幸先よいスタート、奴田原選手組は1.5秒差の3番手であがった。

一夜明けた土曜日は、前夜から雨が降り続いていた。予報では終日雨、しかも十勝地方北部には雷注意報も発令され、ところによっては雨足が強まると伝えられていた。そして、この日の朝も新井選手組はADVAN A053、奴田原選手組はADVAN A031でスタート。ライバル勢も軟質路面用タイヤについては、距離の長いRALLY HOKKAIDOでは摩耗に対する懸念を持つ選手がほとんどで、奴田原選手組のみが装着してステージへと向かっていった。

SS2「RIKUBETSU LONG 1」は奴田原選手組がベストを刻み、新井選手組が0.1秒差でセカンドベストと同等の結果に。しかし林道に入るとタイヤ選択の違いもタイムに表れ、SS3「YAM WAKKA 1」では奴田原選手組が連続ベストをマーク、2番手のライバル・鎌田卓麻選手組に25.3秒差をつける唯一の17分台であがり、およそキロ1秒差の速さを見せた。

この快走はSS4「KUNNEYWA 1」でも変わらず、再び鎌田選手組に40.4秒差とおよそキロ1.4秒の大差をつけて連続ベストタイム。SS4を終えて2番手の鎌田選手組に64.1秒の大量マージンを構築、ADVAN A031のポテンシャルを巧みに引き出す奴田原選手組の走りがラリーをリードしていく。

一方の新井選手組は全日本勢の先頭ゼッケンということで、路面のワダチに川のように溜まっている大量の水を掻きだす役目を強いられてしまい、なかなかペースを上げられない。しかし、マッディな路面と雨に足元をすくわれるかのように序盤から多くのリタイアが生じる中、最も難しい条件の出走というハンデがあるのにも関わらず、世界を戦い抜いてきたドライビングテクニックで上位争いの一角をしっかりキープ。SS5「PAWSE KAMUY 1」では奴田原選手組と同秒ベスト、SS6「RIKUBETSU LONG 2」では単独ベストを叩き出して、追撃態勢を整えていく。

雨は変わらず降り続く中で迎えた土曜日1回目のサービス、ここではADVAN A031が摩耗の面でも全く問題無いことを受けて、新井選手組もタイヤをスイッチ。ライバル勢も軟質路面用タイヤに履き替えた選手が多く、リピートステージでのタイムに注目が集まる。

そして土曜日の後半、ここでもヨコハマタイヤ勢が速さと強さを見せる展開となった。SS7「RIKUBETSU LONG 2」は奴田原選手組がベスト、新井選手組は0.4秒差のセカンドベスト。その後は両者がベストとセカンドベストのポジションを交互に奪うシーソーゲームを演じていく。その一方でライバル勢はトラブルでリタイアや大きく順位を下げ、今年のRALLY HOKKAIDOもトップ争いはヨコハマタイヤ勢に絞られて行った。

土曜日までのLEG1を終えて、トップは奴田原選手組、109.4秒差の2番手に新井選手組。さらに3番手に炭山裕矢選手/保井隆宏選手組、4番手は石崎秀雄選手/河西晴雄選手組と、トップ4をヨコハマタイヤ勢が独占するオーダーでLEG2を迎えた。

このLEG2は前述のように、舗装区間も多いという特徴がある。天候は回復して路面もほぼドライコンディションへと転じたことから、大量リードも背景に奴田原選手組は舗装路面にも対応する超硬質フラットダート用タイヤであるADVAN A036を投入。新井選手組はADVAN A053を装着、この日も朝から両者でタイヤ選択はわかれる展開となった。

この選択の違いにより、全線舗装のSS13「IKEDA 1」は奴田原選手組が2番手を5.2秒引き離すステージベスト。一方でSS12、SS14~SS16は新井選手組がベストをマークした。そして最終のSS17はマシンのマイナートラブルをシューティングした炭山選手組がベストを奪い、終わってみれば17本のSS全てでベストタイムをヨコハマタイヤ勢が独占。

例年以上にタフでサバイバルな展開となったRALLY HOKKAIDOだが、奴田原選手組が二年連続で優勝を飾り、新井選手組は2位フィニッシュでシリーズ2戦を残してチャンピオンを確定(最終決定はJAFモータースポーツ表彰式にて)。さらに炭山選手組も3位となり昨年に続いてヨコハマタイヤ勢が表彰台を独占。4位の石崎選手組までJN6クラスのトップ4を占めて今年のRALLY HOKKAIDOでもヨコハマタイヤの高いパフォーマンスを遺憾なく発揮する結果となった。

また、併催のAPRCでも増村淳選手/中川亜希子選手組が総合3番手でフィニッシュ。APRC登録の有力選手に割って入り、表彰台を獲得した。

DRIVER VOICE

奴田原文雄 選手 [ADVAN-PIAA ランサー]

【今回の成績 : JN6クラス 優勝】
LEG1は最初からADVAN A031を装着しましたが、過去にWRC(FIA世界ラリー選手権)のRALLY JAPANでウェットの戦いがありました。その時はワンメイクタイヤの装着だったのでヨコハマタイヤではありませんでしたが、走っていて「雨ならADVAN A031」という選択はありだな、と確信していたのです。その経験が今回は活きたかたちになりましたね。日曜日のLEG2はドライに転じましたし、舗装区間も多いのでADVAN A036を選択しました。これは「IKEDA」でベストを刻みましたし、グラベルステージでの善し悪しも見えたので、今後につながる大きな収穫だったと思います。ヨコハマタイヤの幅広いラインナップが、しっかり戦いを支えてくれました。2年連続優勝、今シーズンは少しツキにも見放されたラリーが続いてきましたが、この優勝で勢いをつけて残る2戦も勝ってシリーズ2番手を狙っていきます。

新井敏弘 選手 [富士スバル アライモータースポーツ WRX]

【今回の成績 :JN6クラス 2位 (シリーズチャンピオン確定)】
土曜日は雨の影響で、先頭を走ったことからワダチの水に苦労させられました。「KUNNEYWA」は長いストレートが何カ所かあって全て大きな水たまりと川のようなワダチで、これが抵抗になってスピードを乗せて行けませんでした。LEG1を終えて前後との差が離れたので、LEG2は前後差もあったので、危ないところは抑えてしっかりフィニッシュまで運びました。全日本選手権のチャンピオンは1997年以来、若かりしころ以来ですね(笑)。VAB型のWRX STIでチャンピオンを獲得出来て、戦闘力の高さを実証出来たことが嬉しいですね。

炭山裕矢 選手 [ADVAN CUSCO WRX-STI]

【今回の成績 :JN6クラス 3位】
結果的には3位表彰台を獲得出来てよかったです。内容的には色々あったのですが、そんな中でも最終サービスで序盤から引きずっていたマイナートラブルを解消出来てベストを奪うことが出来ました。LEG1は雨だったこともあって分かりにくかった部分が、ドライに転じたLEG2で明らかにおかしいなとなって、トラブルシューティングを行いました。その結果がベストタイムにつながったのですが、これも最後まで走りきらなければわからなかったことですからね。自分一人でテストしていてなかなかわからないことが、いつも戦っているメンバーと競い合うことで明確になりますから、悔しい部分も大きいですが走りきって次に向けたプラスになったことが収穫ですね。この悔しさを、残る2戦で晴らせるように頑張っていきます。

石崎秀雄 選手 [ADVAN フェイスクラフト WRX-STI]

【今回の成績 :JN6クラス 4位】
今年は本当にタフなラリーでしたよね。去年はAPRC枠で出場して、足寄のステージでダイブしてコースから外れて、復帰するのに20分くらいかかってしまいました。だから今年は、ちゃんと道の上にいようと努力した戦いでした。土曜日はみなさんそうでしょうが、あの雨ではどうしても道から外れそうになってしまうんです。自分も何回も草の中に入ったのですが、なんとか道に戻そうという努力をして。RALLY HOKKAIDOに全日本枠で出場したのは初めてなのですが、レギュラーメンバーのみなさんにどれくらい食いついていけるかがテーマでした。SS14ではセカンドベストも獲得できましたし、収穫は多かったですね。順位はおおむね固まってきたので、LEG2で失速しないことと、つまらないミスをしないことを心がけてフィニッシュまで運びました。

TOPICS

地元が一体となって今年も盛り上げたRALLY HOKKAIDO!!

日本で初めてWRC(FIA世界ラリー選手権)が2004年に開催されたのが、北海道の十勝地方。その中核都市である帯広市で行われたセレモニアルスタートには、主催者発表で5万人を超える観客が訪れたことも記憶に新しい。帯広市の人口はおよそ16万8千人であり、このセレモニアルスタートほど街中に人が溢れたことは無いという地元の人も少なくないほどだ。

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WRC開催以前から十勝地方はラリーの舞台となっており、SSが設けられる地域には独自の支援組織が結成されてラリーを盛り上げるための活動を展開するなどしている。今回も沿道には歓迎ののぼり旗が多く立ち並び、子供からお年寄りまで多くの地域住民がラリーマシンに手を振って声援を送っていたことは、多くの参加者が目の当たりにした光景だろう。

土曜日の夜には、林道ステージなどを走ってきたマシンがサービスパークへと向かうリエゾン区間の一部として、帯広駅前の目抜き通りを通過した。雨が降りしきる状況ではあったが、ここにも沿道には多くの市民が集まり、一台一台に声援を送っていたことからも、十勝地方にラリーがしっかり根付いていることが垣間見られた。

AREA GUIDE

スポーツ選手からも人気の特産品は土産物の定番アイテム!!

十勝地方の北側を戦いの舞台とするRALLY HOKKAIDO。これまでにSSが設けられてきた陸別町、本別町、足寄町、音更町は、既にラリーファンの間では広く知られた町である。これらは国内最大の食料基地とも言われる十勝地方らしい大規模農業を中心として栄えており、さらに酪農や林業なども盛んで、雄大な自然美や豊かな食は観光客からも人気を集めている。

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そして今年新たにSSが設けられた池田町。この町は古くからワインの生産で知られており、町の特産品として自治体が主導して開発・生産してきたという珍しい歴史を有する。「十勝ワイン」は地元で栽培されたブドウを原料に造られており、商品化から40年を経て全国で愛飲されるブランドへと成長している。池田駅からも望める工場・研究施設は「ワイン城」と呼ばれており、売店やレストランも併設されているので観光の定番スポットとなっている。

また「十勝ワイン」という名称が「10勝」にもつながるため、スポーツ選手などからゲンの良いワインとして人気も高い。過去にはプロ野球の投手がシリーズ10勝を獲得できるようにと愛飲していたというエピソードもあるほどだ。

TECHNICAL INFORMATION

RALLY HOKKAIDOとしては前例がないほどの強い雨に見舞われた今回、奴田原選手組は金曜夜のオープニングステージからADVAN A031を選択し、土曜日も朝から装着して林道ステージなどで大量のリードを構築した。粘土質の路面はとてもスリッパリーで、土曜日の序盤から多くのリタイアが生じるサバイバルな展開となる中、ADVAN A031が圧倒的なパフォーマンスを発揮。摩耗についても全く問題無かったことから、午後にはライバル勢を含めて多くの選手が軟質路面用タイヤを装着する展開となった。

一方でコンディションが回復した日曜日は、舗装区間も多く設定されていたことから奴田原選手組はADVAN A036を装着。全てが舗装となる「IKEDA」でステージベストを刻んで速さを見せた。ヨコハマタイヤでは対応領域幅の広いADVAN A053を中心に、硬質路面用のADVAN A036、軟質路面用のADVAN A031というグラベルタイヤをラインナップしているが、ラリーにおいても路面状況を的確にとらえるタイヤ選択が勝負の鍵になることを証明した一戦であった。